HTTP/3のCONNECT-UDPを利用したWebRTC通信

Proxying Listener UDP in HTTP」という提案仕様がIETFに提出されている。

これは、HTTP/3のCONNECT-UDPを介してWebRTC通信を可能にするための提案である。まだ議論の呼び水と鳴るdraftであるため、ここから仕様は大きく変わると思うが、ざっと眺めていく。

HTTP/3のCONNECT-UDP

本論に入る前に、まずCONNECT-UDPについて説明します。

IETFではすでに「Proxying UDP in HTTP」という仕様が議論されている。これが通称CONNECT-UDPと呼ばれているものである。実は、AppleのPrivate Relayでもすでに使用されているものである。

これは、Proxyと確立したHTTP/3コネクションをトンネリングしてUDPパケットを中継させる機能です。

この通信は第三者からはただのHTTP/3通信としてか観測できないという特徴があります。確立した通信路を通して自由なUDPパケットを中継させることが出来ます。

このCONNECT-UDPでは、H3-Datagramという仕様でUDPパケットを扱います。詳しくは以前書いた記事を参照ください。
asnokaze.hatenablog.com

Proxying Listener UDP in HTTP

通常のCONNECT-UDPではProxyを中継して通信する相手は1つでしたが、WebRTCはSTUNと通信した上で、通信相手のブラウザからもパケットを受け付ける必要があります。そこで、既存のCONNECT-UDP拡張機能として「Proxying Listener UDP in HTTP」が登場しました。

(提案者はユースケースとしてWebRTCをあげていますが、それに限定されるものでは有りません)

主な通信の流れ

上記の図に沿って通信の流れを説明します。

CONNECTリクエストとレスポンス

まずは、ブラウザAと中継サーバとでHTTP/3のコネクションを確立したのち、中継の要望を出す。

通常のCONNECT-UDPのように、拡張CONNECTメソッドを用いる(:protocolにconnect-udpが指定される)。

connect-udp-listenヘッダを付けることで、Proxying Listener UDP in HTTP の通信であることを明示する。ヘッダの値は使用するH3-DatagramのContext-IDを指定する。

HEADERS
  :method = CONNECT
  :protocol = connect-udp
  :scheme = https
  :path = /.well-known/masque/udp/*/*/
  :authority = proxy.example.org
  connect-udp-listen = 2
  capsule-protocol = ?1
|<<

中継サーバは、200番のレスポンスを返し、CONNECTリクエストの受け入れる意志を示す。

>||
HEADERS
  :status = 200
  capsule-protocol = ?1
STUNサーバへのUDPパケットの中継

ブラウザA側は、H3-DatagramUDPパケットを中継サーバに送信する。このとき、中継先となるターゲットのIPとポートを付加して送る。

 DATAGRAM
   Quarter Stream ID = 11
   Context ID = 2
   IP Version = 4
   IP Address = 192.0.2.42
   UDP Port = 1234
   UDP Payload = Encapsulated UDP Payload

中継サーバは、指定されたIP宛にUDPパケットを中継する。

中継サーバはSTUNサーバから応答となるUDPパケットを受け取ると、ブラウザA側に中継する。このときもH3-DatagramでUDPパケットを中継することになる。

このときのH3-Datagramでは、どこからきたUDPパケットなのかが付加されている。

DATAGRAM
  Quarter Stream ID = 11
  Context ID = 2
  IP Version = 4
  IP Address = 192.0.2.42
  UDP Port = 1234
  UDP Payload = Encapsulated UDP Payload

ブラウザBからのUDPパケットの中継

STUNとのやり取りが終わって、ブラウザAとブラウザBがやりとりを開始します。ブラウザBから送られるUDPパケットも、中継サーバがブラウザAに中継を行います。このときもH3-DatagramでUDPパケットを中継することになる。

DATAGRAM
  Quarter Stream ID = 11
  Context ID = 2
  IP Version = 4
  IP Address = 203.0.113.33
  UDP Port = 4321
  UDP Payload = Encapsulated UDP Payload