Mixed Content Level 2の仕様について

2年前ほど前に「Mixed Content Level 2の議論」に書いたとおり、Mixed Content Level 2についての議論は以前から行われていました。

2019/08/22の日付で、w3cリポジトリにEditor’s Draftとして「Mixed Content Level 2」のページが加わっております。
w3c.github.io

まだ、TODOのものもありますがアルゴリズム部分については書かれています。

Mixed Content Level 1では表示できていた Mixed Content な画像,音声,動画もブロックされる可能性があります。

Mixed Content Level 2

  • http://~なoptionally-blockable content(画像,音声,動画)は、自動でhttpsのURLとしてアクセスされます
  • httpsでアクセスに失敗した場合はブロックされます。

これによって、すべてのMixed Contentはブロックされることになり、CSPのblock-all-mixed-contentは廃止されます。

影響

chromeでは音声と動画を対象に、beta版の50%でこの機能を試しているようです。

httpsへの自動アップグレードにより、1%ほどのページ表示でリソースの読み込みの失敗を観測しているようです。

今後

今月開催されるTPAC 2019で議論される予定となっています
github.com

Double-keyed HTTP cache に関するメモ

201909027追記

Fetchの仕様にプルリクが出されています
HTTP cache partitioning by shivanigithub · Pull Request #943 · whatwg/fetch · GitHub


whatwgでfetchに関して「Double-keyed HTTP cache」という議論がされています。

github.com

ブラウザ側でも動きがあり、下記で議論がされています

背景

HTTPのキャッシュは、そのリソースがどのページ(ドメイン)で読み込まれたかに関わらずに共有で使用されます。しかし、そのキャッシュ状況をサイドチャネル攻撃で調べることによって、特定のリソースが別のページによってロードされているか確認することができます。

この方法を用いて、ユーザの検索履歴や連絡先情報などが取得可能であることを示した「Mass XS-Search using Cache Attack」という例もあります。

この問題への対策がDouble-keyed HTTP cacheです。

Double-keyed HTTP cache

Double-keyed HTTP cacheでは、ページを開いた際のアドレスバーに表示されているオリジンをキャッシュのキーとして使用します。

https:///a.example.comで読み込んだリソースのキャッシュは、https://b.example.comでは使用できなくなります。

これによって、そのリソースがキャッシュされているかはクロスドメインでは確認できなくなります。

Googleの調査ではChromeの開発版での統計データでは、キャッシュのヒット率が4%ほど低下し、キャッシュから読み込まれるデータ量は39.1%から37.8%に低下したと述べています。first contentful paintは大きく変わらなかったとしています。

また、クロスオリジンでキャッシュに読み込む機能のある、クロスオリジンのprefetch、HTTP/2サーバプッシュ(特にキャンセルによってキャッシュの有無が把握可能)については検討が必要そうです(関連資料)。

その他にもCDNへの影響など、議論は引き続き行われそうです。

TCP/QUIC相互変換のポートフォワードツールを書いた

TCP/QUICのポートフォワードツールを書いた。

概要

IETFで標準化が進められているトランスポートプロトコルQUIC。

UDPを利用しており、エンドポイントのIPアドレスが変わってもコネクションが切れなかったり、より良い再送制御が行えたりと長所は多くある。しかし、QUICをサポートしているアプリケーションプロトコル、実装が現状多くはない。

QUICの恩恵に預かるために、TCPとQUICを相互変換するポートフォワードツール 「t2q2t」 を書いた。(実態としてはただのProxy)
github.com


ただし、ハンドシェイク回数が増えるのでコネクション確立時のオーバーヘッドは高い

利用例

ユースケースとしては例えば:

f:id:ASnoKaze:20190818085413p:plain
クライアントとサーバそれぞれでt2q2tを実行する。

  • クライアント: TCPで0.0.0.0:2022でリッスンし、QUICで192.168.0.1:22に転送する
  • サーバ: QUICで0.0.0.0:2022でリッスンし、TCP127.0.0.1:22に転送する
# t2q2t <convert mode> <listen addr> <connect addr>

# クライアントサイド (TCP <-> QUIC)
$ ./t2q2t t2q 0.0.0.0:2022 192.168.0.1:2022

# サーバサイド (TCP <-> QUIC)
$ ./t2q2t q2t 0.0.0.0:2022 127.0.0.1:22

t2q2tとはローカルホスト通信を行い、ホスト間ではSSH over QUICを利用できるようになる。
(2重に暗号化処理を行うことになるが、QUICの特性であるロスリカバリの恩恵を受けるほか、IPアドレスが変わってもコネクションとかは切れないはず)

convert mode

サブコマンドは2種類。それぞれリッスン "アドレス:ポート"と、転送先 "アドレス:ポート" を引数にとる

  • t2q: TCPでリッスンして、QUICで転送する
  • q2t: QUICでリッスンして、TCPで転送する

その他

一応、SSHが問題なくフォワードされ。ログインできることは確認した。

注意事項として、t2q2tは、ALPN識別子として「t2q2t」を使用します。 他のQUIC実装と通信することは意図していない。

実装として、エラーハンドリングが雑なのでまだまだ怪しい。QUIC使う部分は毎回コネクション貼ってるので、ストリームの多重化を利用したいところ(8/22 対応済み)。簡単に挙動を確認したところ、単一コネクションになったので、複数TCPコネクションが帯域を食い合うこともなくなった。輻輳制御上も有利なはず。

性能評価や細かい改善とかはおいおい

t2q2tの読み方

決めてない...orz

curlのHTTP/3実験実装を触ってみる

First HTTP/3 with curl | daniel.haxx.se」で書かれている通り、curlがHTTP/3の実験実装を公開したので試す。

ライブラリとしてngtcp2を使う方法と、cloudflareのquicheを使う方法があるが今回はquicheを使う。

基本的には、Documentにかかれている通り。

なお、環境はUbuntu18.04

ビルド

boringSSLのビルド

$ git clone --recursive https://github.com/cloudflare/quiche
$ mkdir -p quiche/deps/boringssl/build
$ cd quiche/deps/boringssl/build
$ cmake -DCMAKE_POSITION_INDEPENDENT_CODE=on ..
$ make -j`nproc`
$ cd ..
$ mkdir .openssl/lib -p
$ cp build/crypto/libcrypto.a build/ssl/libssl.a .openssl/lib
$ ln -s $PWD/include .openssl

quicheのビルド

$ curl https://sh.rustup.rs -sSf | sh
$ source $HOME/.cargo/env

$ cd ../..
$ QUICHE_BSSL_PATH=$PWD/deps/boringssl cargo build --release

curlのビルド
サーバがレスポンスヘッダでHTTP/3対応を示すのに使われるalt-svcも有効にするために、"--enable-alt-svc"をつけてconfigureする

$ cd ..
$ git clone https://github.com/curl/curl
$ ./buildconf
$ ./configure --with-ssl=$PWD/../quiche/deps/boringssl/.openssl --with-quiche=$PWD/../quiche --enable-debug --enable-alt-svc
$ make -j`nproc`

うまく行っていれば、configure時に下記の通り表示される

  Alt-svc:          enabled
...
  HTTP3:            enabled (quiche)

試す

上記の通り、alt-svcを使わずに直にHTTP/3で接続しに行く場合は --http3-direct をつけてアクセスする

$ src/curl --http3-direct https://www.facebook.com/  -v -s -o /dev/null
* STATE: INIT => CONNECT handle 0x563e1077b528; line 1362 (connection #-5000)
* Added connection 0. The cache now contains 1 members
* STATE: CONNECT => WAITRESOLVE handle 0x563e1077b528; line 1403 (connection #0)
*   Trying 31.13.82.36:443...
* Connecting socket 4 over QUIC
* Sent QUIC client Initial, ALPN: h3-22
* STATE: WAITRESOLVE => WAITCONNECT handle 0x563e1077b528; line 1482 (connection #0)
* Connected to www.facebook.com () port 443 (#0)
* STATE: WAITCONNECT => SENDPROTOCONNECT handle 0x563e1077b528; line 1538 (connection #0)
* Marked for [keep alive]: HTTP default
* STATE: SENDPROTOCONNECT => PROTOCONNECT handle 0x563e1077b528; line 1553 (connection #0)
* quiche established connection!
* STATE: PROTOCONNECT => DO handle 0x563e1077b528; line 1572 (connection #0)
* Using HTTP/3 Stream ID: 0 (easy handle 0x563e1077b528)
(略)

パケットキャプチャをすると、ちゃんとIETF QUIC draft-22バージョンで接続していることが確認できた
f:id:ASnoKaze:20190807031738p:plain

動画上にコメントを表示する"弾幕"の仕様

W3Cの「Chinese Web Interest Group」から、Unofficial Draftとして「弹幕规范」(英語版: Bullet Chatting Proposal)というドキュメントが公開されています。

仕様上でも「use cases and requirements for Danmaku」と書かれている通り、動画上にコメントの弾幕を流すユースケースと新しいエレメントを定義するドキュメントのようです。China MobileやBilibili Inc.の方が共著として入っています。

国内ではニコニコ動画が有名ですが、中国ではBilibiliやAcFunといったサイトなどがこの弾幕機能を持つ動画共有サイトとして有名なようです。

このドキュメントでは、新しくbulletchatlistエレメントとbulletchat エレメントをRecommended APIとして定義しています。

  • bulletchatlist: コメントの表示領域
  • bulletchat: 各コメント
<bulletchatlist area="70" >
  <bulletchat mode="scroll" >This is Content</bulletchat>
  <bulletchat mode="bottom" >Fixed Content</bulletchat>
</bulletchatlist>

f:id:ASnoKaze:20190805001724p:plain
(引用: Bullet Chatting Proposal)

  • bulletchatlistは、表示領域を示すarea属性を持ちます。コメント同士を重ねて表示するallowOverlap属性を持ちます。
  • bulletchatは、そのコメントをどのように表示するかのmode (右から流れるscroll, 下に固定表示するbottomなど)。また、表示及び非表示時に発火するイベントなども定義されています。

Demo

公式のDemoとして動くものが作られています。
w3c.github.io

おわりに

すでにGithubW3C organization配下で文書が管理されています。Interest Groupということで勧告文書は出せないと思うのですが、この先どうなるのかは興味があります。

複数TLSコネクションの署名処理をまとめて行うBatch Signing

GoogleのDavid Benjaminさんにより「Batch Signing for TLS」という仕様が提出されています。

TLSではハンドシェイク中に証明書を持っていることを証明するために、対応する秘密鍵を用いて署名を行います。この署名処理(特にRSA署名)はCPUをたくさん消費するほか、秘密鍵をハードウェアモジュールに格納している場合はオーバーヘッドが高くなります。

この署名処理を、複数コネクション分をまとめて1回で行ってしまうのが「Batch Signing for TLS」です。

Acknowledgmentsに書かれているとおり、Roughtimeプロトコルに同じような機能があります

概要

複数のハンドシェイク中のコネクションから、署名を行うメッセージを集め、Merkleツリーを構成します。

葉を署名対象のメッセージのハッシュ値として、ルートにのみ署名を行います。そのため、複数のメッセージに対して1回の署名で済ませることができます。

メッセージ1, 2, 3をBatch Signingする場合
f:id:ASnoKaze:20190730180837p:plain

  • 葉の初期化: 各メッセージ1, 2, 3 のハッシュ値を偶数番号の葉とします。奇数番号の葉は乱数です。
  • ノードの計算: 各レベルごとに、左右の子を連結したハッシュをノードの値とします
  • ルートの計算: ルートまでノードの値を計算します。

ノードに署名をします。

署名を検証する場合、ルートを計算するのに必要なノードのみが与えられます。メッセージ2を検証する場合、必要なノードはt03, t10, t21です。このノードを順々に連結しハッシュを求めることでルートの値を計算でき、署名値を検証できます。

もちろん、検証する際に他のコネクション用のメッセージを取得できると問題です。そのため、署名するメッセージは偶数番号の葉で、奇数番号は乱数であり結合しハッシュを取ったもののみが他の人にも共有されるため、メッセージ自体がなんだったかそのハッシュ値さえわかりません。

SignatureScheme

Batch Signing用のSignatureSchemeも追加で定義します

       enum {
           ecdsa_secp256r1_sha256_batch(TBD1),
           ecdsa_secp384r1_sha384_batch(TBD2),
           ecdsa_secp521r1_sha512_batch(TBD3),
           ed25519_batch(TBD4),
           ed448_batch(TBD5),
           rsa_pss_pss_sha256_batch(TBD6),
           rsa_pss_rsae_sha256_batch(TBD7),
           rsa_pkcs1_sha256_legacy_batch(TBD8),
           (65536)
       } SignatureScheme

HTTPSで接続するための追加情報を格納するHTTPSSVCレコード

2020/07/19 追記
仕様に幾つかの変更があったため、新しく記事を書き直しました
asnokaze.hatenablog.com



HTTPSで接続する際に以下の情報を持っていると都合がよいです

  • SNIを暗号化するESNIの鍵情報など情報、(通常ESNI DNSレコードに記述される)
  • HTTP/2やHTTP/3で通信可能な事を示すAlt-Svc (通常、HTTPレスポンスヘッダやAlt-Svcフレーム、Alt-Svcレコードで提供される)

それらの情報を通知するのに、DNSに新しくHTTPSSVCレコードを追加する「HTTPSSVC service location and parameter specification via the DNS」という提案仕様がGoogleAkamaiの方の共著で提出されています。

また、このHTTPSSVCレコードではドメインのApexでも使用できるためApexでCNAME使いえない問題も解決できるほか、HTTP Strict Transport Security [HSTS] をクライアントに通知できるので初回接続のセキュリティーを改善します。

拡張可能でもあるため、今後もこのレコードに機能を追加することもできます。

HTTPSSVC レコードの利用例です。

 example.com.      2H  IN HTTPSSVC 0 0 svc.example.net.
 svc.example.net.  2H  IN HTTPSSVC 1 2 svc3.example.net. "hq=\":8003\" \
                                    esnikeys=\"...\""
 svc.example.net.  2H  IN HTTPSSVC 1 3 svc2.example.net. "h2=\":8002\" \
                                    esnikeys=\"...\""
  • example.comsvc.example.netからも提供できることを示します。
  • svc3.example.netからHTTP/3を8003ポートで提供できることを示します(また必要なesnikeysを示します)
  • svc2.example.netからHTTP/2を8002ポートで提供できることを示します(また必要なesnikeysを示します)

HTTPSSVCレコードは存在自体がHSTSを示すので、クライアントはHTTPのリンクもHTTPSで接続しに行きます。

フォーマット

HTTPSSVCは、2つの数字がまずならびます。

仕様では、拡張としてesnikeysでESNI用の鍵も付与できるようになっています。