Greasing the QUIC Bit の仕様について (RFC9287)

Greasing the QUIC Bit」という仕様が提案されています。

背景

仕様の解説の前に、QUIC BitとDemultiplexingの補足をします。

QUIC Bit

QUIC v1ではロングヘッダパケット、ショートヘッダパケット(1-RTTパケット)とも先頭から2bit目がFixed Bitとして "1" に固定されています。


UDP demultiplexing

たとえばWebRTCでは、一つのUDPポートで複数のプロトコルのパケットをやりとりします。RFC7983では、その多重化の方法を定義していますが、その仕様もQUICを考慮した形で改訂作業が進められています。それが「Multiplexing Scheme Updates for QUIC」です。

具体的には、下記のように各パケットの先頭1バイトによってパケットを識別します。

この識別に、QUIC Bitが利用できます。

硬直化

QUIC v1では、QUICパケットのヘッダもほとんどの領域が暗号化されていますが、QUIC Bitは暗号化されません。demultiplexingするために、QUIC Bitは復号前に利用されるからです。

このようにパケットの特定値が経路上で利用されていると、予期せぬ形で利用され、新しい拡張仕様や将来のQUICバージョンをデプロイするときに誤作動する要因となりえます。このような問題を硬直化とよんでおり、TLS1.3やQUICではすでに、そのような問題がすでに見つかっています。

そのため、一般的にGreasing という仕組みを導入し硬直化しづらくします。

Greasing the QUIC Bit

demultiplexingが必要ない通信では、クライアントとサーバ合意のもとQUIC Bitをランダムに設定しても通信上は問題有りません。それが「Greasing the QUIC Bit」です。

Greasing the QUIC Bit」では、grease_quic_bitトランスポートパラメータをemptyで送信します。

grease_quic_bitトランスポートパラメータを受信下側は、その相手に対してQUIC Bitをランダムに設定してもよくなります。

また将来的に、このbitをその他の用途に利用もすることもできます。